「この駅、実際のところ何人くらい通るんだろう」——出店やテナント選びの話になると、必ずこの疑問にぶつかります。
もともとは自分が知りたかっただけでした。ある場所の商圏を調べようとして既存の分析ツールをいくつか触ってみたのですが、見たい数字が揃わない。駅の利用者数は出るけれど周りに住んでいる人の構成が見えない、逆に人口は出るけれど駅の規模が分からない、といった具合です。結局、公開されているデータを自分で集めて、地図の上で重ねられるツールを作りました。
作ってみたら自分の想像以上に便利だったので、駅と商圏の分析ツールとして無料で公開することにしました。登録は不要で、全国9,057駅が対象です。この記事では、そのツールを使って商圏を調べる手順と、出てきた数字をどう読めばいいかをまとめます。
そもそも駅の乗降人員は、どこに公開されているのか
「駅の利用者数を調べる」と一言でいっても、実際にやってみると意外と面倒です。データ自体は公開されているのですが、そのままでは比較に使いにくい形をしています。
- 国土交通省の国土数値情報には駅別の乗降客数がまとまっていますが、地図情報(GIS)用のデータ形式で、表計算ソフトで開いてすぐ眺められるものではありません。
- 鉄道各社が公表している数字はPDFやExcelで、会社ごとに様式が違います。複数路線が乗り入れる駅は、会社ごとの数字を自分で足す必要があります。
- 「乗車人員」と「乗降人員」は別物です。乗車人員は乗った人だけ、乗降人員は乗った人と降りた人の合計。JR各社は乗車人員で公表していることが多く、私鉄は乗降人員が多い。気づかずに混ぜると、倍近くずれた比較をしてしまいます。
- 集計方法も事業者ごとに違います。定期券の扱いや乗り換え客の数え方が変わると、前年比が実際の増減と違う動きをすることがあります。
つまり「駅の数字を横に並べて比べる」という当たり前のことが、手作業だとかなり重い。ツールでは国土数値情報の駅別乗降客数データ(2024年)を使い、全国の駅を同じ土俵に載せた状態から始められるようにしています。
商圏は「3つの層」で見ると間違えにくい
商圏の数字は、性質の違うものが混ざりがちです。私はいつも次の3層に分けて見ています。
- ① 駅を使う人:1日の乗降人員。その場所の前を通る人の量です。
- ② 円の中に住んでいる人:駅を中心にした円の中の人口・世帯数・年齢構成・世帯のタイプ・持ち家率・就業者。国勢調査(令和2年)の町丁目の値を、円と重なる面積の割合で按分した推計値です。
- ③ 市区町村の数字:昼間人口・昼夜間人口比、事業所数・従業者数、1人あたりの課税対象所得、住宅着工。中心の駅がある市区町村全体の値です。
この3つを混ぜると判断を外します。たとえばオフィス街の駅は、乗降人員が多く昼夜間人口比も高いのに、円の中に住んでいる人は少ない。夜と日曜に売上が立つ業態なら、乗降人員の大きさだけを見て決めると当てが外れます。逆に郊外のベッドタウンは、乗降人員は中くらいでも円の中の世帯数が多く、持ち家率が高い。狙う客層がどの層に乗っているのかを先に決めてから数字を見るほうが、迷いません。
実際に調べる手順
STEP1:駅名で探す
駅名を入れて検索します(例:天王寺、横浜、札幌)。都道府県から選ぶこともできますし、緯度・経度で場所を直接指定することもできます。駅から離れたロードサイドの候補地を中心に置きたいときは、緯度・経度で指定するのが早いです。
STEP2:商圏の半径を選ぶ
駅を中心にした円の半径を、500m〜100kmから選びます。直線距離での円です。徒歩圏を見るなら500m〜1km、自転車・バス圏なら2〜3km、車前提の業態や営業エリアの検討なら10km以上、というように用途で変わります。
STEP3:タブを切り替えて見る
「地図・サマリー」「駅ランキング」「駅比較」「推移」「住民構成」のタブを切り替えます。数字はCSVで保存できるので、社内の検討資料や稟議の根拠としてそのまま貼れます。
半径はひとつに決めず、変えて比べる
使ってみて一番効くと感じたのは、半径を変えて同じ場所を何度か見ることです。500m、1km、3kmと広げていったときの人口の増え方を見ると、その商圏の性格が出ます。
徒歩圏の500mですでに数が揃う場所なら、店前の通行と徒歩客で成立する立地です。3kmまで広げないと数が揃わないなら、車や自転車で来てもらう前提の設計が要る。同じ「商圏人口3万人」でも、中身はまったく違います。
円の中に入っている駅とその乗降人員の合計も出るので、「この円には他にどんな駅が含まれているか」=競合の商圏とどれだけ重なっているかも、あわせて確認できます。
数字を見るときの落とし穴
自分で作ったツールなので、限界も正直に書いておきます。次の4点は、判断を誤りやすいところです。
- 円の中の人口・世帯は推計値です。町丁目の値を面積で按分しているため、その町丁目の中で人がどちらに偏って住んでいるかまでは反映されません。下1桁まで正確な数字としては扱わないでください。
- 乗降人員は2024年の値です。事業者の集計方法の変更などで、年ごとの増減が実際の変化と違う場合があります(ツールの画面にも注記を出しています)。
- 昼間人口・事業所数・所得・住宅着工は、中心の駅がある市区町村の値で、円の中の値ではありません。市境をまたぐ立地では特に注意が必要です。
- 円は直線距離です。線路・川・大きな幹線道路・坂は考慮されません。実際の人の動きはこうした地形で分断されるので、最後は地図を見て頭の中で補正してください。
元になっているデータは、国土数値情報、国勢調査、経済センサス、法人番号公表サイトなど、いずれも公的に公開されているものです。出典と利用条件はツールのページ下部にすべて明記しています。
用途別の見方
- 店舗の出店候補を比べる:駅比較タブで候補駅を並べ、乗降人員・円内人口・年齢構成を横に見ます。1駅ずつ見るより、差が出るところが分かりやすい。
- テナント物件の比較:候補物件の最寄駅を中心に、同じ半径で揃えて比べます。商業地・住宅地の地価も出るので、提示された賃料が相場に対してどうかを考える材料になります。
- BtoBの営業エリア設計:事業所数・従業者数に加えて、新しく設立された法人の数が見られます。開拓余地のある地域か、すでに取り合いになっている地域かの当たりがつきます。
- 既存店の見直し:推移タブで乗降人員の推移を見ます。前年、コロナ前(2019年)、10年前との比較が出るので、売上の変化が立地側の変化なのか自店の問題なのかを切り分けられます。
なお、駅という単位は買い物のタイミングそのものとも結びついています。その話は最寄駅までの数分が購入を後押しするで書きました。
まとめ:商圏を見るときのチェックリスト
- 比べている数字が「乗車人員」か「乗降人員」か、定義を揃えたか
- 駅・円の中・市区町村という3つの層を混ぜていないか
- 半径を2〜3通りに変えて、増え方を見たか
- 円の中の人口が推計値であることを踏まえた粒度で判断しているか
- 地図を見て、線路・川・坂などの分断を確認したか
ツールは登録不要・無料で公開しています。駅と商圏の分析ツールから、そのままブラウザで使えます。
公開データを集計して社内で使える形にする、こうしたツールの開発も承っています。「この数字をこう見たい」という要望があれば、お問い合わせからお気軽にご相談ください。



